「お金の奴隷解放宣言」について、思ったこと

コンテンツを有償提供することは、恥ずかしいこと、あるいは卑しいことなのでしょうか。


はじめに


このブログで、お説教臭いことを書くつもりは無いのですが、このたび生じた問題は、先頃感じていた幾多の問題の集大成のように感じ、そしてこれは「ものづくりをする業界の存続」に関わること、さらには「子供の教育に悪い」状況だと感じたので、今回は特別に、一言申し上げたく思い筆を執りました。

あまり重苦しくない文体で書く努力をしましたので、お付き合い下さい。
急いで書いたので、内容に不備があるかもしれませんが、その時はご容赦下さい。



発端


まず事の発端は、キングコング西野さんが、自著の絵本「えんとつ町のプペル」を無償公開したということに始まりました。

無償公開したこと自体はともかくとして、これと同時に発した「お金の奴隷解放宣言」は大きな問題で、成果に金銭での対価をいただくことを「お金の奴隷」などと表現することは、正視に耐えないと感じました。
今回の件では、本人は子供にいいことをしたと満足げですが、実は彼の考えとは裏腹に子供に対してかなり悪い教育、影響を与えてしまったと感じています。駄々をこねれば何でもタダで手に入るという悪い教育をしてしまったのではないでしょうか。
また、大人に対してもこれを自分でも実行すればボロ儲けできると勘違いさせる切っ掛けを作ってしまったことは、大きな問題であると感じています。



お代を頂戴するということ


絵本であれ何であれ(弊社はソフトウェアを作る会社なのでソフトウェアでも)、そういった創作活動を経てお金を得ることは、悪く、卑しいことなのでしょうか?
自分のスキルを費やして作ったものでお代金をいただき、それでご飯をいただく。それが、卑しいことなのでしょうか?


今回これに、もの作りをする会社の代表として言及しようと考えたのは、これを許してしまうとコンテンツ制作はもとより、あらゆるサービス提供業および製造業が存続できなくなる、つまり業界が消滅するであろうと予見したからです。
これは憶測でも何でもなくて、タダ=収入が得られない、タダ働きが当然だ、という状況では仕事として継続できるわけがないのですから、誰でも想像できることです。

そうなれば、「タダが当たり前」「金を取るなんて卑しいこと」と教育されて育ってしまった子供たち自身に対して無限の損害をもたらすことになります。
彼ら自身が成長し大人になり、やがてものを作る仕事をしたいと考えて就職しようと思った頃に、もはやそういった業界は潰えてしまったとすれば、そう教育されて育った子供たちにこの上ない不幸をもたらすでしょう。



お代を払うということ


お代を払うということは、ものの価値を認めるということです。
人間は、それだけの価値があると思うから、それに対してお代を払うわけです。
値段が自分の思う価値に見合わないと判断したなら、それを買うことはないわけです。

逆に言えば、タダのものに人間は価値を見いだすことは出来ません。値段がタダのものには、価値がないのです。

ものの価値は認めても、その時に手持ちがなく買えない場合もあるかもしれません。
しかしそれは仕方の無いことでしょう。手持ちのあるときに改めて購入すれば良いことです。

子供でも、良い子に徹して親に褒められおこづかいをもらい、それを貯めれば買うことができるかもしれません。
少ないお金を一所懸命にためて何とか買うのですから、お金の大切さやものの価値について理解できるようになるでしょう。にもかかわらず、「タダであげよう」となれば、その大切な感覚を育てることができなくなります。

「えんとつ町のプペル」の場合、もともと2000円という価格つまり有料でした。無償公開とされたものは画質が悪いので、購入前の確認用であるとも言えますが、これを「無料にする」として公開したことは、この創作物にはもともと価値がなかったと自ら主張したに等しいのではないでしょうか。
そして、創作物に対価は払わなくてよいという風潮にも荷担してしまいました。
子供にも読んで欲しいというのであれば、図書館に寄贈するなどの方法もあったでしょう。子供が図書館に蔵書を依頼する方法もあったはずです。

もし、お代を払わないことが一般化してしまうとどうなるか。
『「お金出さないと買えない」は悪じゃなくて正常』というイラストを描いた方がおられました。分かり易く、参考になるかと思います。



ものづくりの現状


「お金の奴隷解放宣言」という言葉は、この言葉自体を美しいと感じる人がおり、それに酔う人がいるのも事実です。
しかしこれは、食べられる本業が別にあって、創作があくまで副業であるという人の驕りでありましょう。そして、これは創作を本業としている人にとっては死活問題ですが、これに本業として反論をすれば「自分の利益を守りたい悪者」とされてしまうかもしれません。

なぜなら、元々この日本という国は肉体労働を重視し、頭脳労働を軽視する傾向にあり、このため頭脳労働に充分な対価を支払おうとしない風潮があるからです。
弊社はソフトウェア製造業ですから、この国の現状の影響を強く受けてきました。


どのような創作業界でも、業界を守るためには必要な人材に正当な賃金を払う必要があります。
ですから、自分たちの技術や制作物は安売りをしてはいけないと教わり育ち、しかしデフレ時代には客からの値下げ圧力に毅然と対抗したり折れたりしつつ、どうにか自身の業界の未来を守りながら生きてきたのが、様々なものづくりのプロフェッショナルです。
デフレ時代は苦しく、高い技術を用いたり高い質をもつ優れた商品も、ダンピングによって価格が破壊され、これがクリエイターに対して低賃金を求める主因になりました。倒れたクリエイターは数多ありますが、それでも業界は努力をしてなんとか文化を維持してきたのです。

しかしそんな業界の努力を無にして、あろうことか美談として賃金は無料が相応しいと言うに等しいことを、キングコング西野さんは今回やってのけたのは、大きな問題であると言えます。

日本のこれまでの状況に、さらに「タダ」などという条件を追加されてしまっては、もはやそんな世界では創作活動などはできません。
タダで仕事することは社会に貢献することだ、などがまかり通ってしまっては、クリエイターは終わりです。
「クリエイティブの奴隷宣言」をクリエイターに対して宣告したことに他ならないのです。



対価の考え方について


先頃は、スマホのゲームも「基本タダ+ガチャで暴利」という、健全とは言い難いスタイルが一般化しています。

このためガチャさえしなければ無料で遊び続けられる状況を生み出し、「タダが当たり前」「金は払いたい人が払えば良い」という風潮になり、あまつさえ、タダで遊び続ける人が課金する人を小馬鹿にするような事態さえ発生していることは、上述したような「子供に対する悪い教育」の影響であると考えています。

カプコンの逆転裁判、任天堂のスーパーマリオランを、妥当と思える価格よりかなり廉価で販売しても、結論として「なんでタダじゃないんだ」「金を取るなんて企業モラルとしてどうか」「詐欺だ」などという、目を疑うようなコメントを平然と書き込み、★1を付けてしまう子供が大量発生したのは、本当につい最近のことです。


ものを作るのには、膨大なコストが掛かります。そのコストを、それを求める人に割り振る、つまりお値段を付けてその価格で買って貰うというのは、経済活動を維持するための基本です。しかしそれを否定するような状況で、今後創作活動を続けることができるのでしょうか?


子供の頃より、ものに対価を支払うという社会勉強をさせることは大切なことです。どうしても欲しいものがあるなら、おこづかいやお年玉などを貯めて買う、ということを教えることは大人のつとめです。それを放棄することは、大切な子供たちに対する、特に大切な教育を放棄しているに等しいのではないでしょうか。




結論


長くなったので、そろそろ結論を述べて終わりたいと思います。



子供たちへ。欲しいものは、おこづかいを貯めて買いましょう。

2017/01/20(金)21:34 |Comments(1) |Trackback(0)

製造開発 | ものづくり | ビジネス | [編集]

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コメント

>> この創作物にはもともと価値がなかったと自ら主張したに等しいのではないでしょうか。

飛躍しすぎだと思います。
電子書籍には無料のものがいくらでもあります。
昔のソフトウェアを無料にしているところもありますよね。

>> 図書館に寄贈するなどの方法もあったでしょう。

余計に金がかかります。

>> 子供が図書館に蔵書を依頼する方法もあったはずです。

個人的には、これがいいと思います。自分も小学生の時はそうしてましたし。

>> どのような創作業界でも、業界を守るためには必要な人材に正当な賃金を払う必要があります。

そうなのですが、既に大企業がさんざん破壊しています。
#ちなみに、自分はIT業界です。
今更西野さんのせいにする必要はないと思います。

>> どうしても欲しいものがあるなら、おこづかいやお年玉などを貯めて買う、ということを教えることは大人のつとめです。

親が教えるべきことだと思うのですが。
---
ネットの西野さん叩きが目に余るので、単に自分がそういうことに嫌気がさしているだけかもしれません。
西野さんの行動が正しいか間違っているか、自分は言う立場でもありません。
ぱんかれさんのTwitterも、某社の人間がクズなだけでしょう。
お詫びが来たそうですし。
2017/01/20(金)23:20 |ひみつのだれか | URL |編集
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